この小説は、よしもとばななの作品の中で、一番好きかもしれない。
私がいつこのお話に初めて出会ったのか、正直定かではない。
覚えているのは、高校の現代文の問題集に、問題として掲載されていたのを読んで、どうしても続きを読みたいと思ったこと。
その後、図書館や本屋で探してみても、この表題を見つけることはできなかった。
この本に再び出会ったのは、去年の冬だったと思う。
図書館で、また検索をかけて、やっと見つけた!とすごく喜んだ。
だけど読み進めていくうち、私はこのお話を以前に最後まで読んだことがあることを思い出した。
が、それがいつ、どこでなのかは覚えていない。どうしても思い出せない。
「キッチン」に収録されていたということだから、きっと「キッチン」を読んだ高校生の時のはずで、「キッチン」を読んだ時のことは思い出せるのに、「ムーンライト・シャドウ」を読んだことを思い出せないということは、その時の私はまったくこの作品に思い入れがなかったということになる。
こんなに好きになるとは、その頃の私は思いもよらなかったのだろう。
よしもとばななの作品は、どれもとても不思議な空気がある。
とても不思議な空気が。
よしもとばななの「白河夜船」という小説。この作品もまた、私には深い思い入れがあって、「ムーンライト・シャドウ」と同じくらいに好きだが、それはまたいつか読んだ時に書くとして。
どうしてこんなに、私を不思議な世界へ連れていってくれるのか、文章ひとつでこんなに世界がゆがんで見えるのか、よしもとばななは魔法使いなのかと思う。
「ムーンライト・シャドウ」は、主人公の女の子(女性、と言ったほうが適切かもしれない)が、大切な人を失った苦しみを、ただ淡々と語っている。
ただ、淡々と。
私にはそう思えた。
ただ淡々と、主観的に。
過去を追い求めているわけではなくて、失われたはずの大切な人との未来を見つめて。
それがとても悲しい。
彼女が語る言葉たちは、大切な人を亡くして悲しんでいる言葉のはずなのに、なぜかそれがただの言葉にしか見えなくて、だけどそれがかえって悲しい。
本当の思いを、言葉にするとやけに薄っぺらいものになってしまって、言葉と思いの温度差がとても大きくなってしまうように。
小説のはずなのに、本当に大切な人を失ってしまった人の言葉のように響いてしまって、私の頭は真っ白になってしまう。
それがとても悲しくて、だれかこの人たちを助けてあげて!と言いたくなる。
何度読んでも。どこで読んでも。
声に出して読みたくなる小説。
そんなお話には、そんなに出会ったことはないけど、声に出して読みたくなる言葉たちだ。
もう、このお話は何度も読んでいるけど、いつも思ったことをうまく言葉にできない。
言葉にすると、「コレも違う、アレも違う」と思って、余計に思いから遠く離れてしまう。
けれど、言葉に反して心はとても一杯になる。
何度も出会いたくなる。
どうしてもこのお話を読みたくなる夜が来る。
短いお話。いつも一気に読む。
ゆっくりと、時間をかけずに。
私はまたいつか、このお話を読みたくなる。
そんなお話。
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コメント
きっと状況によってもそうだと思うし。
だけどよく、ふと手に取った本が、その時の自分にすごくシンクロしていて、今この本を読んだのは偶然じゃないなと思うこともあります。
よしもとばなな。私はとても好きな作家さんの一人です。
読んだら感想聞かせてくださいね!
なんでかって本屋にふらっと立ち寄ると、待ってましたとばかりに本がよってくるんですねぇ。向こうから。う…ん。あんまり理解してもらえそうにありませんが、、、


次の感想文楽しみにしております。
そういう本って、読んでみると「待ってました!」とばかりに自分の心にシンクロしちゃったり。
だから、前評判でハードカバーなんて買っちゃって「お金の無駄!」ってことがよくあります。自分の直感で読む本とは根本的に違いますよね。
読んだ人の感想で、なんとなく読んでみたくなって、なんとなく読んでみたら、自分が想像したモノとはぜんぜん違って、でもそれがまたヒットだったり。
それは音楽でも映画でも同じだったり。
そういう「コレだ!」って寄ってくる本に出会えると、なんだか嬉しくなったりしません?
自分が選んでいるのか、本に選ばれているのかw
なんにしろ世の中には偶然ってないのかもしれないって気がすることがたまにあります。そう思うと全てのものは必要な時にベストなタイミングで与えられんのかもしれないなー。だからこそシンクロするんでしょうね。
ジャスミンさんは、最近読んでいる本とかあります?
しばらく本は読んでなかったんですが、その反動でしょうか?ここのところ妙に本が集まってきます。
本屋に行くと、まず表紙とタイトルをざーっと見て、そこで何か気になるのがあったら、手にとって帯を見ます。あーコレだ!って思ったら、大抵は自分に合う本ですね。本当に、必要な時に必要なモノが与えられてるのかも。
最近読んでたのは、桜井亜美の「空の香りを愛するように」。桜井亜美とも運命的な出会い(笑)をして、それ以来全部読んでいて。コレは最近文庫化されて、また読み返してました。
あとは、恩田陸の「ライオンハート」ですね。この本も偶然手にとってすぐに買って、一気に読んだ本です。なぜかこないだ図書館に行って、読んだことを忘れて借りてきて、すぐに「あ、これ読んだじゃん!」って思いながらまた読みましたw持ってるのに。
D15さんはどんな本を読むんですか?
うん。はじめて読んだ時の印象はそれほどよくないのに、後で読み返してみると、不思議ととっても好きになれたりする小説ってありますよね。年齢なのか、自分の置かれた状況なのか…理由はよくわかんないけど。
「よしもとばなな」確か前に1冊だけ読んだような…。また、ちゃんと読んでみようかな、という気になりました